実家に行ってみると、小学校一年生の甥っ子がカブトムシやらクワガタやらを飼ってる。もちろん買ったんじゃなくって、どこかから捕まえてきたものだ。兄も大量に飼っていたので、血は争えないな・・・と思いつつ、僕は心の中で、あるエピソードを思い出していた。
僕の実家のある地域は、今ではベッドタウンとして人口爆発地域だけど、僕が子供の頃はのんびりした田園地帯。夏は電灯をつけておくと普通にカブトムシやクワガタが飛んできてて、「統計グラフコンクール」のお題で、「灯りに寄ってくる虫たち」というのでカブトやらを描いてると、都会育ちの女先生に、「森田君。嘘はいかんよ」と疑われた。
少し時代が戻って、保育所時代。
今では庭の一画になってるところに、マッシュルームの菌床を作っていた場所があって、まぁ、なんというかよく肥えていた。常にジメジメしていた。広さにして、8畳ぐらい。その年、すごい事実が発覚した。なんと、カブトムシの幼虫がこの土の中に大量にいるらしいのだ。
気づいた兄はマッシュルームの出荷用に大量にあった一斗缶に、そこの土を入れて、掘り出した幼虫をひとつの缶に10匹ずつぐらい放り込んでいった。缶は全部で10個はあったと思うから、100匹はいたんだろうなぁ。まぁ言うたら大量のでかい芋虫を飼ってるわけで、姉や母はかなり怒っていたらしい。
そのうち幼虫は飴色のサナギになる。僕がせがむものだから、兄はよく一斗缶の蓋をとっては飴色ながらカブトムシの形をしたサナギを見せてくれたものだ。
ところが、保育園児が見るだけで終わるはずがない。
兄や他の家族が見ていない隙に、こっそり一斗缶に忍び寄っては、飽かずに眺め、ついには、たまーに、持ち上げたり、つついたりしてしまった・・・。すると、かわいそうなことに、サナギは身動きひとつせず、
(ペコッ)
と、引っ込んだり、
(ポキッ)
と折れたりするのだ・・・。(書いていて、後悔が35年ぶりに沸いてきた・・・)
そんな時はあわてて土の中に戻す。
さて、成虫になるのを待ちわびて一斗缶の中を毎日のように確認する兄。その日がやって来たとき、5匹に1匹ぐらい形がへんてこなカブトムシがいることが話題になった。
「なんでやろー?」
「やっぱり、狭いとこで飼っとったけんちゃうか?」
「そうかぁ・・・。かわいそうなことしたなぁ。」
お兄様、今、35年ぶりに告白しますが、奇形なカブトムシ発生の原因は、この僕でございます。